は し が き
東日本大震災、福島第一原発事故発生から2年が経過した。この間、食品の放射線測定に関するルールは整備され、「このようにすれば少なくとも消費者に放射能の不安を与えずに済む」手順が確立されつつあるといってよい。確立されてくれば、知見が積み重なる。どこの産地のどういう食材は放射線量が高いということが明らかになって、ひとつの法則のようになる。一度そうなったら、そういう食材は当面排除され、選別が進む。こういうことを繰り返していけば、「少なくとも放射能の不安がない食材」だけを供給するリスクミニマムの体制ができあがっていく。そして、このような体制の整備が進めば進むほど、放射線量・放射能に対する消費者の関心は薄れていく。原発事故発生直後の放射線量騒動がウソのように、いつの間にか原発事故がなかったかのように、放射線の不安が取り去られたかのように、… 社会全体の情勢はそのように変わってきたように見える。
それでも3月11日が迫れば、マスコミは特集を組む。福島第一原発は今こうなっている、だから、まだまだ不安なのだと言う。しかし、3月11日が過ぎれば、すぐに元通りに戻るからすぐに忘れる。こういうことをこれから毎年繰り返していく中でますます放射線に対する関心は薄れていくだろう。ただし、それは同じような事故が起こらないという仮定が成立する場合である。大きな余震が来る、東南海地震が起きる、空から大きな隕石が降ってくるかもしれない、人為的なミスで事故が起こるかもしれない、… 絶対安全ということはありえず、何かがあれば、放射線に対する関心はまた大きくなるだろう。
しかし、放射能に対する関心、放射線を測る技術などは、本来このように流動的なものではないはずである。人類が原子力を活用する道を選択した時点から、永久に付き合わなければならない関心であり、技術であるはずである。実際、福島第一原発事故で放出・蓄積された放射能は、永く福島の地に残るのであって、ここ福島を、放射線測定技術の世界的な拠点にし、放射能リテラシーを高めること、放射線測定技術の革新を起こすこと、そして、新たな知恵を絞って人の住める地に戻すこと、これらは、原子力エネルギーの活用を選択したわが国民全体の責任といえるのではないか。
本事業では、これからがむしろ放射線測定技術を必要とするという認識に立ち、その技術者の育成に向けて様々なことを試みた。結果として、その成果は多岐に渡っているが、今後の測定技術者育成の指針になる要素を多く含んでいることは間違いないという手応えを感じている。
平成25年3月
学校法人東京生命科学学園 東京バイオテクノロジー専門学校
「新しい食品放射線基準を正しく理解できる放射線測定技術者の育成」推進協議会